高校時代、僕と彼はそれなりに仲が良かったと思う。
同じ卓球部に所属し、部活が終われば一緒に自転車で帰る。たまに寄り道をすることもあった。
帰り道では、他愛もない話をしていたと思う。
小学校は同じだったものの、当時は接点がなかったから、小中学校時代の思い出話もあれば、高校でのクラスの話もした。
特別な話をしていたわけではない。
本当に、どこにでもあるような高校生の会話だ。
少なくとも、彼と一緒にいる時間の居心地は悪くなかった。
中学時代、彼は僕にとってただなんとなく、羨望の対象だった。
運動ができて、周囲からも慕われていて、彼女もいた。
そんな彼と同じ高校に進学したわけだが、高校時代の僕は、さして彼に対して特別な感情を抱いていたわけではなかった。
少なくとも、嫉妬や羨望していたという自覚はない。
当時の僕は、自分のことで精いっぱいだった。
周囲の人間関係に目を向ける余裕もなかったし、そもそも見ないようにしていた。
周りから受け入れられなかった僕には、そうする以外の選択肢がなかったのだと思う。
休み時間にはライトノベルを読み、二次元の世界に没頭する事。
それが当時の僕にとって、救いだった。
そんな塞ぎ込んでいた僕も、9月頃になると少しずつ考えが変わってきた。
もう遅いかもしれない。
そもそも高校選びから間違っていたから、何も変わらないかもしれない。
それでも、何もしないまま高校生活を終えるのは嫌だったのだろう。
ただ、普通に楽しみたかった。
友達と遊んだり、文化祭を楽しんだり、恋愛をしたり。
いわゆる「青春」というものを、自分も経験してみたかったのだと思う。
そして、その中でも女子との関わりは、僕にとって大きなウェイトを占めていた。
そして僕は彼にこんなことを話した。
「A、やっぱり僕、また頑張ってみるよ。女子とも話したりとか」
「うん、それがいいと思うよ。がんばれ。」
そんな会話をしたのを覚えている。
〇〇
そして、人生で初めての文化祭が近づいてきた。
「うーんどうしよう」担任は困っていた。
なかなか立候補者がおらず堂々巡りであった。
うちの高校の文化祭は、クラスの代表者2名を選出(立候補)して店長を決めるのだが、うちのクラスはやりたい人がいないようだった。
「なあ、A…。文化祭の店長、一緒にやらない?」
僕はこれを機に、クラスの人たちと関わりを持てるかもしれないと思った。
もしかしたら女子とも接点ができるかもしれない。
そんな目論見があった。
そこで僕は、彼を誘った。
「おお、いいよ」
今更だが、これで快く一緒にやってくれる彼は本当に凄い。
僕が逆の立場なら、きっと面倒くさがって断ったろうに。
彼も彼で何か思うところがあって、この提案に乗ってきたのだろうか?
〇〇
クラスの出し物はストラックアウトだった。
ストラックアウトの的を作ったり、ダンボールで装飾を作ったり
店長という立場だったので、クラスメイトへの指示出しなどもしていたはずだが、
あまり覚えてはいない。
もしかしたら彼が全部やってくれたのかもしれないが。
そして結論から言うと、店長になったからといって、何かが変わることはなかった。
ただひたすら、面倒な雑務が増えただけで、女子との関わりなんてものも、全くなかった。
当時、文化祭実行委員の男女とも接点が持てるかもしれない、なんて期待もあったのだが、そもそも仕事の領域が全く違った。
〇〇
文化祭当日。
僕と彼は二人で中心となってクラスを回していた……と思う。
どういうシフトだったのかも定かではないが、僕と彼の負担は明らかに多かった。
仕方ないのかもしれないが、朝から夕方までほぼ動きっぱなしだったことは覚えている。
僕は早々に後悔していた。
これでバイト代でも出ればまだマシだが、流石にメリットがない無賃労働は堪えた。
もう二度とやるものか。
動き続けながら、頭の中ではずっとそんなことを思っていた。
〇〇
文化祭の途中、うちのクラスにAの彼女が遊びに来た。
僕も当然同じ中学ではあったが、彼女と面識がなかったため、二人の様子を遠巻きに見ていただけだった。
すると、クラスメイトの男子が彼に声をかけた。
「あれ、あの子美人だったな。Aのトモダチ?」
彼女ではなく、なぜ友達認定なのだろう?
あのような美人が、まさか彼女とは思わなかったのだろうか?
そう考えるのは、捻くれすぎだろうか。
彼は「彼女だよ」とはっきり答えず、なぜか濁していた。その理由はわからない。ドヤ顔で言ってやればいいのに。僕ならそうするね。
ちなみに、僕は彼女を素直に美人だと思った。(一瞬しか見ていないが)
中学の時はそう思わなかった気がするが。
さて、僕の通っていた高校には「〇〇(高校)マジック」という言葉があった。
校則が厳しく、髪型や制服、メイクなど昭和並みに制限されていたこともあり、
これは男子にも言えることかもしれないが。
とにかく、他校の生徒がやたらと美女に見えてしまう現象だ。
顔立ち自体は、そこまで変わらないのかもしれないけれど。やはりオシャレできないことは、大きなデバフである。
そして僕も例に漏れず、〇〇マジックにかかっていた。
だからなんだって話だけどさ。
〇〇
文化祭の後に残ったのは、やり切ったという感覚もあったが、それ以上に「疲れた」という感情だった。
結局、店長をやって僕が得たものは、この環境では僕が何をやったところで無意味だということだった。
まあ、やらない後悔よりは、それがわかる方がマシかもしれない。
僕はますます絶望し、底の底へと、堕ちていく。
大袈裟かもしれないが、何をどうやっても八方塞がりの感覚だった。
〇〇
このあと、文化祭の打ち上げをやるらしい。
僕はきっぱり、参加しないと答えた。
何もしたくなかった。誰とも関わりたくなかった。
家に帰ると、LINEにメッセージが来ていた。
クラスのDQNからだ。
「Aが、来て欲しいって言ってるんだけど、こない?」
僕は丁重にお断りした。
その時の僕には、誰かの言葉に耳を傾ける余裕なんてなかった。
けれど、彼はいい奴だと思った。
⑦に続く


