社会人6年目です。新卒入社した会社を1年で退職。現在は転職した会社で働いています。あと、YouTubeに動画投稿してます。
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彼と彼女は利用し合う❹ 「恢復」

SS(ショートストーリー)

※この物語はフィックションです。実在する団体・人物とは関係ありません

前回❸の続きです

彼と彼女は利用し合う❸ 「不適」
※この物語はフィックションです。実在する団体・人物とは関係ありません前回❷の続きです必要なときに声をかければ、なんとなく会って、それなりに楽しい時間を過ごして深く干渉しすぎることもなく、...

『じゃあさ、遊びに行こうよ』

カナからのその一文に、思わず笑ってしまった。

慰めの言葉も、同情のスタンプもない。ただのいつも通りの誘い。

その軽さが、やけに心に沁みた。

週末、久しぶりに会ったカナは相変わらずだった。

「おー、久しぶり。顔つき暗ぇぞ。失恋の傷跡バレバレ」

そう言って笑いながら、俺の肩を軽く小突いてくる。

その仕草が、どれだけ俺を安心させたか。

ファストフード店でポテトをつまみながら、カナは相変わらずアニメの話を止めない。

「来期の新作さ、絶対チェックしとけよ。私、原作から追ってたから布教するからな」

「……はいはい、布教活動ご苦労さま」

他愛もない会話のはずなのに、気づけば笑っていた。

この2ヶ月間、笑うときですらどこかで顔色を窺っていたことを思い出して、少し切なくなった。

帰り道、駅のホームで電車を待ちながら、ふと口が勝手に動いた。

「カナってさ、ほんと便利だな」

「は? 便利って何よ」

不満げに睨んでくる視線を避けながら、それでも言葉を探す。

「……あー、いや。楽って意味」

「ふーん。ま、悪い気はしないけど」

そう言って鼻を鳴らしたカナの横顔が、やけに近くに見えた。

俺にとってカナは、ただの友達じゃない。

けど、恋人でもないし、恋愛感情はない

その曖昧さが心地よかった

〇〇

週明け、学食で昼を食べていると、向こうからカナが歩いてきた。

「お、いたいた」

当然のように俺の隣に腰を下ろして、トレイを置く。

同じ大学だから顔を合わせる機会は多いはずなのに、こうして隣に座られるだけで、不思議と「帰ってきた」みたいな感覚になる。

「ゼミのレポート進んでんの?」

「いや、まだ。てかカナこそ」

「……私も。お互い終わらせないとマジで詰むな」

そう言って笑うカナの横顔を見ながら、ふと思った。

彼女と付き合っていた頃より、こうしてカナと馬鹿話してる方がずっと自然で、楽だって。

たぶん俺たちは、お互い同じことを感じていたと思う。

友達の顔をしながら、けれど異性としての心地よさもある

俺は敢えてそれを言葉にしないまま、曖昧な場所に居続けようとしていた。

〇〇

神保町にある有名なカレー屋。

カレーマニアというわけでない俺が、そこに足を運んだ理由は「カナがバイトしてる」と聞いたからだった。

夜ご飯にはまだ早い微妙な時間だったからか、店内の人はまばらですぐに入れたし、1人で4人用テーブルを陣取れた

しばらくすると、厨房の奥から制服姿のカナが現れる。

「あ、なんだ。ほんとに来たんだ」

素っ気なく言いながらも、口元が少し緩んでいるのを見逃さなかった。

「いらっしゃいませー」と店の客に向かって声を張るカナは、普段大学で見せる姿とは少し違う。

テキパキと注文を取って、器用にトレーを運ぶ。

なんかすげえな。仕事できそうというか。

「はい、お待ちどうさま」

スパイスの効いたカレーがテーブルに置かれ、思わず箸……じゃなくてスプーンを手に取る。

けれど、そのあとすぐにカナがもう一度やってきた。

手にしているのは、注文していないメロンクリームソーダ。

「……え、これ頼んでないけど」

「サービス。感謝しな」

ストローを突き刺し、胸を張ったカナの顔は見事なドヤ顔だった。

その表情が可笑しくて、思わず吹き出してしまう。

「なに笑ってんのよ」

「いや、だって……すげえドヤ顔してるから」

「うっさい。サービスなんて滅多にしないんだから、有難く飲め」

カナはそう言い捨てて、くるりと背を向けて厨房に戻っていった。

俺はスプーンでアイスをすくいながら、思う。恋愛対象とかそういうのじゃないけど……やっぱりカナは、俺にとって“ちょうどいい存在”なのだ。

「…うめぇ」

❺最終話に続く

彼と彼女は利用し合う❺ 最終話「放恣の果て」
※この物語はフィックションです。実在する団体・人物とは関係ありません❹の続きです「もうやばい、締め切りが鬼すぎる!」カフェの机に突っ伏したカナの声は、店内のジャズBGMよりも元気に響いていた。...

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