第1話「モラトリアムの延長」
2020年4月1日
とうとう僕は社会人になった
大学1年の時からこの瞬間をいつも憂慮していた
高校生の頃は当分先の事だから余裕があったけれど
刻一刻と迫ってくるカウントダウンは、恐怖となって僕の心を支配する
こうして1人の青年が憂いている最中、世間は例のウイルスの話題で持ちきりだ
テレビをつけると、どのチャンネルも同じ話題
物語の主人公にでもなった気分で「なんだこれ…」と呟いてみる
なんにせよ異常な事態だと理解するのに、多くの時間はかからなかった
○○
僕が就職した会社はBtoCの店舗型ビジネスを展開している
百貨店や駅施設、大型SC(ショッピングセンター)に出店する何の変哲もない業種である
入社式で人事課長から告げられた僕の配属先は、都心の店舗だった
3日間勤務したあとの土日は公休だったのだが、この2日間は生きた心地がしなかったのを覚えている
新しい環境、社会人という未知の世界、無理やり嵌め込まれた規則正しい生活
これらは僕の心に多大なストレスを与えるには充分だった
接客業は大学のアルバイトで経験済みだったのに、それを遥かに凌ぐレベルできつかった
社会人になって4回目の出勤日
その日上司から告げられたのは、明日から営業停止になるということだけだった
4月7日 幸か不幸か、世界的なパンデミックは僕に猶予をもたらしたのだった
第2話に続く
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