前回の続き
第4話「勝利とはなんだろう」
残念ながら、僕が努力によって実力をつけていき、レギュラー入りを果たしたとかそんな綺麗な話ではない
1年生の中で4番目くらいの実力だったJくんは、練習態度が悪いとのことで顧問から嫌われていた
体育館の壇上で、言い争っているシーンは記憶に新しい
まるでそれは韓国ドラマさながらのヒステリックぶりで、「帰れ」と言われて本当に帰るムーブをして以来、顧問は明らかに彼を差別していた
勝利を望むならば、間違いなく僕じゃなくてJ君を選ぶべきなのだが、所詮これが人間の性なのかもしれない
嫌いだから試合に出さない。単純明快だ
中学生ながら、教師というものがとても小さなものに思えた
〇〇
中学卓球の団体戦は1、2試合目がシングルス、3試合目にダブルスを挟み、残りの4、5試合目がシングルスで、3試合勝利したチームの勝ちとなる
3試合目に行われるダブルスは、基本的にレギュラーの中で5、6番手の選手が割り振られる風潮があった
強い選手はシングルスで出したほうが得なのだ
当然僕はダブルスの役目を担うこととなる
そんなわけで不本意ながら、僕はY小学校組で唯一のレギュラー入りを果たしたのだった
〇〇
来たるべく試合当日、僕は相当緊張していた
初めての団体戦、初めてのダブルスだった
まあ、結論から言うとこの緊張は杞憂だったのだが
まず、絶対的エースは父親が関東大会出場経験もある天才Tくんだ(のちに卓球推薦で東京の高校に進学する)
彼は1年生ながら団体戦レギュラー入りを果たし、チームの勝利に大きく貢献していた
この時点で2年の先輩を差し置いて、部内で一番上手かったと思う
個人戦でも1年生大会では当然のように優勝していた化け物である
まあ全て紹介すると長くなるので割愛するが、こんな感じで地区大会でベスト4を狙える選手が3人いた
この3人こそが、この1年生チームの柱だ
2年生も混じる団体戦で既に活躍していた彼らは、同年代に敵なんていない
〇〇
さて、ここで僕たちのチームの歪な形が、露呈することとなる
団体戦において、勝利するためには3試合に勝つ必要があるのだが、裏を返せば「2試合落としても3試合で勝てればいい」ということになる
つまり、レギュラーの6人のうち3人の圧倒的実力者さえいれば、他の3人は必要ないということだ
〇〇
1回戦、僕はダブルスとして試合に出たが、当然のように敗北した
しかし自分が負けても、チームは勝ち上がっていく
なんだかよくわからない感覚
2回戦も3回戦も、4回戦も、準々決勝も、準決勝も、決勝も、全部、全部負けた
1試合残らず、だ
僕の卓球は清々しいほどに、まるで通用しなかった
練習をサボってたわけじゃない。毎日必死に食らいついていた。でも、これが現実だった
僕の試合は全て終わった。だからとにかくベンチで必死に応援した。今の自分にできることは、それくらいだと理解していたから
気がつくと、会場内は熱気と歓声に包まれている
団体戦、地区大会決勝戦、2-2で回ってきた5試合目
この試合に勝ったほうが優勝だ
ラストオーダーは、のちにチームのキャプテンとなる、Yくんである
実力ではTくんに一歩劣るが、その成長速度はいつか彼をも凌駕してしまうんじゃないかと思わせるほど
ポテンシャルはNo. 1というやつだ
当時イケメンで勉強もできて(のちに早稲田大学に現役合格する)卓球も上手いという二重の意味で天才プレイヤーという評価を受けていた彼は、悔しいほどにスター性を持っていた
最後に回ってきた5番手のシングルス、Yくんが勝てばチームは優勝という状況
そんな場面で、彼は緊張するどころか笑みを浮かべていた
気のせいではなく、本当に笑っていた
漫画の主人公かよ。今にしてそう思う
試合は2-2のフルセットまでもつれ込み、会場内の視線はこの一台に集中していた
それはまるで、この試合のために会場が設営されたと感じさせるほどだった
結論は言わなくても、なんとなく察せるだろう
僕たちはその日、団体戦で優勝した
〇〇
優勝が決まった瞬間、大きな歓声と拍手、観客席からの部員たちの叫び、色んなものが轟く
3年の先輩たちも成し遂げられなかった、優勝をあっけなく果たしたのだ
それなのに、僕の心は空っぽだった
勝利って、こんなにも虚しいものなのか
それはきっと、優勝したのは「僕たち」じゃなくて「彼ら3人」だからだ
もしもあそこで点を決めて、チームを勝利に導いたのがY君ではなく僕だったなら、そんな妄想は何度もしたさ
力ある者が羨ましかった。眩しかった。それに対して何もできない自分は、ひたすら無力で
どうしようもなく広がる目の前の現実は、13歳の少年を絶望させるには充分だった
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