社会人6年目です。新卒入社した会社を1年で退職。現在は転職した会社で働いています。あと、YouTubeに動画投稿してます。
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彼と彼女は利用し合う❸ 「不適」

SS(ショートストーリー)

※この物語はフィックションです。実在する団体・人物とは関係ありません

彼と彼女は利用し合う❷「邂逅」
※この物語はフィックションです。実在する団体・人物とは関係ありません※前回①の続きです「あ、ブロックされてるわ」数ヶ月前に何度か遊んだ女は、用済みとなった俺に興味を失ったようだった浮気が...

前回❷の続きです


必要なときに声をかければ、なんとなく会って、それなりに楽しい時間を過ごして

深く干渉しすぎることもなく、けれど完全な他人には戻らない。

そういう、心地よくも危ういバランスの上に、俺達はいたんだと思う

たとえば、大学の講義のあとに寄るカフェ。

テーブルの向かいでカナはスマホをいじりながら、俺にだけ聞こえる声でぽつぽつと話す。

「私の入ったゼミがめんどくさいとこでさ。教授は厳しいわ、レポートたくさんあるわ。ゼミ生はみんな学歴コンプで他大学編入目指してるわできっつい。ゼミ選びミスったわほんと」

そう言って、わざとらしくため息をつく。

きっとカナにとっても、俺との時間は「素を出せる余白」だったんだと思う。

たまにカラオケしたり、アニメの話をしたり、飲みに行ったり。

会わない日でもLINEでチャットしたり

『カナは今日何してた?』

『んー、家でアニメ見てた。てかさ、あんたってほんとヒマだよね。いつもLINE返信早いし』

『ブーメランでワロタ m9(^Д^) 』

『テメェぶっ飛ばすぞ』

俺たちはお互い恋人がいなかったけど、一人で居られるほど器用でもなかった

だから、ちょうどよかったんだ

少し距離があって、少し近くて

求めすぎず、突き放しすぎず

俺にとってカナの存在は好都合だったし、おそらくカナにとっても同じだった。

〇〇

夕方、池袋駅東口の信号前

休日なのにどちらともなく「今日、暇?」とLINEを送り合って、なんとなく会う流れになった。

「なんかさ、わたしたちって毎回ノリが雑じゃない?」

そう言いながら現れたカナは、大きめのパーカーに細めのジーパンスタイル。

ラフなのは相変わらずだけど、ダボっとしたパーカーが、男が着るのとは少し印象が違くて、目が合った瞬間なんとなく視線を逸らしてしまった。

「いいじゃん。雑でも成立してるなら、それで」

「それ“雑なやつ”の言い訳じゃん」

皮肉っぽく笑いながらも、カナは俺の横に自然に並ぶ。

どこへ行くかは特に決めてない。けど別に困らない。

それが俺たちの日常だった。

歩きながら今期アニメの話をしたり、大学やバイトの愚痴をこぼしたり。

時々沈黙があっても、気まずくはない。

「……あんたってさ、他の女の子ともこういう感じなの?」

ふと、カナが言った。

何気ない風を装っているけど、目線は前のままで。

「いや、別に。てか、カナだからじゃない?こういうの成立すんの」

「ふーん……なるほどね」

そう言って笑ったカナの横顔は、ちょっとだけ嬉しそうで、ちょっとだけ寂しそうだった。

〇〇

「へぇ、そうなんだ。やったじゃん!」

俺に彼女ができたことを報告したとき、カナは少し大げさに喜んでみせた。

付き合うことになった彼女は、たまたま同じ講義を隣で受けていた子。グループワークすることになりLINEを交換して、約3回のデートを経て交際することになった。

「すごいじゃん、ついにあんたにも春が来たね」と軽口を飛ばす。

「……あー、私も彼氏ほしいなぁ」

カナはお決まりの台詞を呟いた。

いつも言っていたはずのその一言が、やけに心に残った。

いや、見て見ぬ振りをしていた。

〇〇

最初は彼女ができたことが嬉しくて舞い上がった。一緒にご飯を食べたり、水族館に行ったくらいだったが

だけど、会話も、テンションも、服装も、相槌さえも気を使う。本当の自分を見せられない

彼女は俺がアニメ好きだとか、バドミントンをやっていたとか、何も知らない。話していないからだ

なんだか合わないな。疲れるなー。そう思い始めた2ヶ月後、別れは静かにやってきた。

別れたその夜、理由もなくスマホを開いて、カナのアイコンを探した。

この2ヶ月間は稀にLINEするくらいで以前のように会うことはなくなっていた。

『彼女と別れた』

短く送ったメッセージに、カナはすぐ既読をつけて、すぐ返してきた。

『そっか、……おつかれさま』

一言、それだけだった。

でも数分後にもう一通。

『じゃあさ、遊びに行こうよ』

その一文に、俺は救われた気がした。

❹に続く

彼と彼女は利用し合う❹ 「恢復」
※この物語はフィックションです。実在する団体・人物とは関係ありません前回❸の続きです『じゃあさ、遊びに行こうよ』カナからのその一文に、思わず笑ってしまった。慰めの言葉も、同情のスタンプも...

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