社会人6年目です。新卒入社した会社を1年で退職。現在は転職した会社で働いています。あと、YouTubeに動画投稿してます。
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彼と彼女は利用し合う❶

SS(ショートストーリー)

※この物語はフィックションです。実在する団体・人物とは関係ありません


彼は満たされなかった

ただ自分という存在を認めて欲しかったのだろう

大衆酒屋。喧騒の中にいた。馬鹿な大学生と限界リーマンが跋扈するこの空間はひたすらに騒々しい

そして俺も例に漏れず、この空間に馴染んでいるのかもしれない

『彼氏とうまくいってないんだよね。あいつ、可愛いアイドルが好きでさ。只の推しだというけど、その子と付き合いたいとか平気で言ってくるしー。サークルの女子とも頻繁に飲みに行くし。あと顔がカッコよくない。ほんと嫌なところばかり』

彼氏に対する愚痴、か。あるあるだな。1年付き合っても、いや1年付き合ったからこそか?よくもまあぽんぽんと不満が出るものだと感心する

「別れないのか?」

『ん〜、別れたい…のかなぁ。よく分からないや」

先程の愚痴は本心のようだが、同時に女は彼氏のことが「好き」なのがわかった。要は独占欲からくる嫉妬だろう

『ところで君、カッコいいよね。冴えないあいつとは大違い。今度二人で飲みに行こうよ』

女は俺のことが気に入ったようだ。清楚じみた外見とは裏腹に、俗世的方向に燻っている

『私こう見えてお酒好きなんだ。どっちがたくさん飲めるか勝負しようよ』

それはきっと、この女にとっての免罪符なのだろう

『あーあ、終電無くなっちゃった…。フラフラするし、ホテル行こっか?』

こんな展開を思い描いているわけじゃない。俺はいつも、流れに身を任せるだけだ

『彼氏?何それ、私知らないー』

女は悪びれず、蠱惑的に笑う。しかし、その姿は側から見れば恐ろしいまでに自然体であり、なんの澱みも無い。ただの魅力的な一美人である

それもその筈。女は名門お嬢様学校出身であり、両親からそれはそれは大事に育てられた箱入り娘だ

むしろ悪びれるどころか、自身は被害者であるのだからこの行為は許されて当然 という意思がそこに在る様な気がした

人間不信になるぜ、全く

『あ、けど、手は繋がないよ』

キスやそれ以上はいいのか。その基準はよくわからなかった。

彼氏に対する罪悪感…はあるわけもないか

この台詞が、一時的な「遊び」だという俺への宣告と捉えるのは穿っているだろうか

いや、単に人の目があるか否かの違いか

『さ、キスして。彼氏?〝今日は〟いないよ。もうその話はいいでしょ』

女は酷く面倒臭そうだ。興醒めさせてくれるなよ、と言わんばかり

「あぁ、そうだな」

これ以上、余計なことを考えるのはやめた

〇〇

『まって、そろそろ彼氏にLINE送らなきゃ…!』

俺は事後、女のスマホで彼氏とやらにメッセージを送る。

もちろん文面に違和感がないように「いま、家に、帰ってきたよ、っと」

せめてもの腹癒せ、或いは抵抗か。果たして哀れなのはこの女の彼氏?それとも俺なのかね


時を同じくして、とある居酒屋のカウンター席に彼女は居た

はてさて、彼女は満たされなかった

彼氏作りには困らなかったけれど

そんな私は男勝りな性格というか、見た目も中身も清楚系とは真反対だと自負している

そこは少しコンプレックスだったりするんだけど、だからこそ“ちょうどいい”んだろう。不本意だけど

でも物足りない

思えば、今まで心から好きになれた男はいないかもしれない

「ぷはーっ!やっぱり、一人で豪遊するのって楽しいわ」

「お、カナさん、凄い呑みっぷりだねぇ!何かあったのかい?」

今時では珍しい屋台スタイルの居酒屋。江戸っ子店主の声が気持ちよく響く

「そ う な ん で す!聞いてくださいよ!あの野郎が…」

豪快にビールを呑み干したあと、彼女は語り始めた。宵はまだ始まったばかりだ

私が何故こうして1人居酒屋に来ているかというと、半年くらい付き合った彼氏と別れ、色々とむしゃくしゃしているからである

〇〇

「飲み過ぎた・・・」

まあ、楽しかったからいいか の精神は何歳くらいまで通用するのだろうか

「さて、絶賛失恋中の私の独白にもう少し付き合ってくださいな。って誰に言ってるんだ私。酔ってるなあ」

1番ムカつくのは、別れた直後に同じサークルの子と付き合いだしたこと

どうせ私と別れそうな間際、恋愛相談とかいう名目で逢瀬していたに違いない

「はぁ…なんであんな男と付き合ったんだろう?これ、別れる度に毎回言ってる気がするけど」

背は低い、顔もイケメンとは言い難い。その上、女誑しのクズ野郎

高学歴で勉強はできるから、変にプライドも高かったし。何よりネチネチした性格が気に食わない

「…やめやめ。今この思考をしてる瞬間が人生でいっっっっちばん無駄!」

「フリーの今を楽しも。うん、そうしよう」

彼女は自分にそう言い聞かせ、桜道を横切ってフラフラと歩きだした


二章に続く

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